2014.07.22

野口哲哉展

友人に「是非!」と、薦められて美術館に行ってきました。
「野口哲哉展ー野口哲哉の武者分類図鑑ー」(アサヒビール大山崎山荘美術館)

これは、もう出色の出来!
平田さん、よくぞ教えて下さいました。ありがとうございます。
まだ見に行ってない人は、こんな作文読んでる暇あったら、大山崎まで即、お出掛けになることをおすすめします。
(車で行く人は、専用駐車場がないので、前もってウェブサイトでコインパーキングをチェックしてくださいね。)
(あと、ちょっと山道なのでハイヒールはやめた方がいいかも‥)
アサヒビール大山崎山荘美術館ホームページ

 

シャネル家の侍

とにかくセンス抜群。嬉しくなっちゃう。

野口哲哉さんは1980年生まれの若い作家だけれど、夢中になって見ている側は1年生くらいの少年少女から、70代くらいのご夫妻まで、まさに老若男女を問わない。

おそらく、100年後にワープしても、はたまた実際に甲冑を身にまとっていた戦国の世の人が見たとしても、シャネルやヘッドホンの洒落は解らないなりに 「ほーっ」と頬をゆるめてにんまりする「普遍性」を持つ作品なのだと思う。

作者の、人体および甲冑に対する造詣の深さと、卓越した表現技術に加えて、モノに対する尋常ならざるこだわり、そして人を見る目の優しさと彼のもつ独特の軽さ(ある種の諦観のような持ち味)が、パロディーなのにきわめて格調の高い、なんとも言い尽くせない魅力をもった芸術作品を作り上げたんじゃないかな、と思う。

この人のメインのモチーフはもちろん「甲冑をきた侍の姿」なんだけれど、ちょっとしんどそうで、概ね冴えない表情の人物たちは、過去、現在、未来のどの時代でも絶対に多数派であるはずの、実に身近な、あの愛すべきおじさん達、お兄さん達じゃないの。栄養ドリンク上げたくなっちゃうような‥。

勇ましい重たい甲冑を身に着けたお侍が、「あ〜、しんど」ってひと息ついて、「よっこらしょ」っと立ち上がる。おまけにアタッシュケースもってたり、ヘッドフォン聞いてたり。時空を超えてリアルな普遍的な可愛い人間を感じる作品郡。
なかには、ちょっとスノッブな赤いお侍「red man」なんかも登場して笑っちゃうのである。(下の写真)

red man

そして、「古色蒼然の味」それ自体も、野口さんの大きなテーマの一つではないかと感じる。

作品自体が古美術のパロディである手前、それを入れる箱がある訳だけど、その箱の出来が半端じゃない。(写真下・中央))

野口哲哉の木箱

私は、図録の中での箱の扱いが小さすぎて、ちょっと不満!
箱に小さく貼られた作品名のラベルの隅々まで尋常でないこだわりがみられて、またしても思わず「にんまり」してしまうのである。
「神は細部に宿る」っていうけど、この人の作品は神様の宿ってないところはおそらく1ミクロンもないのだ。

メタルフィギュア

彼が幼少時代、愛してやまなかった「メタルフィギア」を模した作品にはこれまたお洒落な箱がついているのだが、こちらも古色蒼然とまでは言わないが、時代を経たセピア感がいっぱい。(写真上)
この「メタルフィギュア』には当然のように、ふるびた説明書がついているし、いくつかの甲冑たちには、専門書の古びた「解説本の一ページ」が作品として作られ一緒に展示されてる。(写真下)

作品の解説ページの作品

この野口さんの、「古色蒼然」「古び」に対する「執着」は何なんだろう?
そして、多くの人が、「古色蒼然」「レトロ」なものに感じる愛着や居心地の良さは何処からくるのだろう。

はたと考えた。
もしかしたら、「長く愛され大事にされた、かけがえのないもの」が発するエネルギーのような‥。
長年にわたり愛され続けたものだけが放つ、言いようのない温かい魅力‥。

骨董品なんか、(私は縁ないけど)、持ち主に、多くのものの中からセレクトされた上、ためつすがめつ愛玩されたモノたちは、大事にされることによって、いっそうの美しさとぬくもりを獲得するのではないかしら。
金継ぎされた陶器が、時として、割れる前より美しくなるのは、手間もお金もかけて修理をしたことで、モノに込めた愛情のレベルが一段上がるからじゃない?
ブリキのおもちゃだって、持ち主が大切に保管していたからいい味が出るのであって、ただ年代が古いだけで壊れて汚ければガラクタの域を出ない。
悠久の時を経てなお美しいものになるためにはそれこそ人知をこえた神の加護まで必要だろう。

そうだ、長い時代を生き延びたものには守り続けられた「加護され愛された」ものだけがもつ力があるんだな、きっと。だからみんな「美しく古びたもの」や「レトロなもの」に温かみや懐かしさ、愛情を感じるんだ。「作った人の思い入れ」と「保持し続けた人のまごころ」あるいは「無傷で残った奇跡」みたいなもののコラボレーション。意図するしないにかかわらずね。
ひとまず今日はこういう結論にしておこう。

サンタクロース侍

 

さて、大切に扱われながら、長い時間の流れだけが作ることが出来た「愛ある古色蒼然の美」

これを、自由自在に作品として楽しく作り上げたのが野口哲哉さんじゃないのかな。恐るべき技術とこだわりと愛情を持って。

野口さんの作る古色蒼然は、あたたかくてとても綺麗。
おまけに古いものや精巧な人形が、美しさと同時に持ちがちな「おどろおどろしい怨念めいた居心地の悪さ」は、ほとんどない。ユーモアで軽くいなしているから「古色蒼然の美」と「温かいユーモア」というプラス面だけが表現されているみたい。(上の写真は、サンタクロース侍)

見ている側は、何とも言えない暖かみ、懐かしさ、ユーモアあるいはシンパシーを感じる。

野口哲哉 好きな作品

一つ一つの作品についている、長い長い解説文も野口さんの自作で、これがまた傑作パロディ。
その最後の行に、いちいち「これは作り話です、でまかせです」的な説明があるのが笑える。でないと、私みたいなおっちょこちょいが真に受けてしまうから‥。

実際、ずっと後の時代の人が、この作品郡のおかげで時代考証を錯乱されるんじゃないかと心配しちゃうほど自然。

あと、この人の作品は、あまりにレベルが高いので、図録ではその大きさがとても把握しにくい。(小さい作品でも精巧だから図録だと大きく見える気がする)(大きさも作品により相当のはばがある。)

何でもそうだけど、図録や写真では魅力のほんの一部しか伝わらない。
悪いことはいいませんから、のこりわずかな期間中、美術館へ足を運ぶことをおすすめします。

野口哲哉 フィギュア

ミュージアムショッップで買ったフィギュアも、思ったほどではないけど、そこそこ可愛いです。(¥800だもん。これ以上なにを望むねん。)作者本人による彩色が施されたものは、当然売り切れでした‥。
袋も作品の一部ということでしょう、実際には、使わず美術館の封筒で販売してくれましたよ。

終わり

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